ミンスミート Mincemeat


こんにちは、玉井です。


世間はもうクリスマスですね!


というわけで、今日からクリスマスに関わるお菓子を取り上げていこうと思います。

今日ご紹介するのは、ミンスミートです。


ミンスミートは主にミンスパイと呼ばれる、小さなパイに使われます。この時期になると、大体どの家庭でもテーブルにミンスパイが登場することになります。

スーパーやカフェでも簡単に見つけることのできるこの小さなパイは、伝統的ながらクリスマスのシーズントリートとして、今でも多くの人たちに愛されています。


さて、日本ではまだあまりなじみのないミンスパイですが、ミンスミート(mincemeat)と聞くと、イギリスやお菓子作りになじみのない人は、ひき肉(minced meat)のことだと考えるようです。実際に元々は豚やマトン、ラムなどのお肉とスパイスを使ったパイ用のフィリングのことでした。


このスパイシーなミンスミートを使ったパイ(ミンスパイ)が最初に紹介されたのは、1390年にイギリスで発行された「A Forme of Cury」という本の中で、でした。豚ひき肉、堅ゆで卵、チーズ、数種類のスパイスに加え、サフランと砂糖を加えたレシピで、聞いただけでおいしそうな感じがします。

それ以降、ミンスパイのレシピはいくつも紹介されてきましたが、この時点ではまだミンスパイとクリスマスとの関りはなく、普通の食事として季節に関係なく食べられていました。

と言うのも、そもそも「パイ」は鉱山や工場、農場などで働く労働者が、休憩中に安全に簡単に食事がとれるようにと考え出されたもので、持ち運びに便利なように硬くしっかりと焼いたパイの中に肉などのフィリングを入れ、中だけを食べるものだったのです。


クリスマスとの繋がりがはっきりとしだしたのは、17世紀中ごろからと言われています。


1661年1月に、イギリスの官僚の一人「イギリス海軍の父」と言われたサミュエル・ピープス(Samuel Pepys)が友人の結婚18年目の誕生日のお祝いとして、18個のミンスパイを送ったことがきっかけだと言われています。サミュエル自身はクリスマスの時によくミンスパイを食べており、彼の日記にはクリスマスにはたいていミンスパイのことが(たとえ一言だけでも)書かれています。例えば、翌年の1662年の日記で、妻の体調が思わしくなく、ミンスパイを作るのは難しかったため、デリバリーしてもらった、と書かれています。それ以降にも12月25日の日記には「家に帰ったら妻がミンスパイを作っていた」などと書かれています。


これだけではミンスパイとクリスマスにそれほど強いつながりがあるようには思えないのですが、実はこのサミュエルの逸話を少しさかのぼると、オリバー・クロムウェルの時代があります。清教徒であるクロムウェルがイギリスの指導者であった時代、政治などもすべて厳しい清教徒の教えが基礎となっており、クリスマスを含むあらゆるキリスト教の聖なる日(Holy day)を祝うことは禁止されていました。このとき直接ミンスパイについて言及はされていませんが、クリスマスにスパイスを使ったお菓子を焼いて祝うことは法律違反だったそうです。

そんな歴史の後で、サミュエル・ピープスとミンスパイの話が、ミンスパイとクリスマスのつながりの一つとして残ったのではないでしょうか。

ちなみに、クリスマスとスパイスに宗教的な特別なつながりはあまりないようです。日本のようにショウガを食べると風邪をひきにくくなる、などということはあったかもしれませんが、当時高級品だったスパイスを使った料理は特別な時にしか食べられず、それが伝統として続いて、だんだんと「クリスマスの香り」になっていったのではないでしょうか。


さて、ここまではお肉を使ったミンスミートの話。ではいつごろからこのセイボリーパイはスイーツになったのでしょうか。


刊行物としては1747年にはすでに、レシピ本の中でスイーツとしてのミンスパイが紹介されているそうです。

そこでは、カレンツ、レーズン、リンゴ、砂糖、スエットをパイ生地の上に層にして入れ、レモンピールとオレンジピール、赤ワインを加えて焼く、と書かれているそうです。このレシピでは、もし肉を使いたければ、できるだけ細かくカットし、ほかの材料と混ぜること、とあり、完全にお肉を使わないレシピとして紹介されていたようです。


砂糖が安く手に入るようになると、スイートパイはもっと一般的になってきました。

1861年発行のかの有名なミセス・ビートンの家政書では肉バージョンのミンスパイに続いて、肉フリーのパイのレシピが書かれており、ビクトリア時代にはミンスパイと言えば甘いスイーツだったようです。


さて、歴史についてはだいたいこんなところですが、現在でもクリスマスシーズンになると、イギリス中のスーパーで瓶詰のあらゆる種類のミンスミートを買うことができます。もちろん箱入りの大量生産のミンスパイもたくさん見ることができます。

私は手作りのほうが好きですが、以前手作りのものと既製品を比べてみようと思い、在英中の友人に頼んだところ、あまりの種類の多さにどれを買ったらいいのかわからなかったことがあります。ひとえにミンスミートと言っても、ジンジャーが入ったもの、リンゴを使ったもの、使っているアルコールが違うもの、またはビーガン・ベジタリアン向けのものなど、本当に様々です。

ビンの大きさは400g入り以上のものが多く、イギリス人がいかにミンスパイが好きかを物語っていると思います。


私が毎年作っているものも少し特殊と言えば特殊で、イギリスの伝説的なレシピ本の著者であるマリー・ベリー(Mary Berry)のレシピの一つを使っています。このレシピでは、スエットの代わりにバターを使い、アーモンドも加えて一度火にかけます。

バターを使うレシピは少ないわけではありませんが、伝統的にはスエットを使うのが一般的で、火にかけずに材料をよく混ぜてビンに詰め、数日から数週間保存するだけ、というレシピが多いのです。私はスエットが苦手なのでこのレシピを選びました。


ところで、このブログでは、イギリス人に習ったレシピを紹介してくれるんじゃないの?と思われた方もいるかもしれません。しかし、マリー・ベリーの本は料理好き、お菓子好きのイギリス人が必ず1冊は持っていると言われ、だれに聞いても伝統的なベーカーと評判のおばあちゃん、マリー・ベリー。イギリスで教わったレシピも彼女のレシピをアレンジしたもの、ということも多いんです。

私もそんな人たちに倣って彼女のレシピをちょっとアレンジして使っています。


今日ご紹介するレシピは、ちょっとアレンジした私のミンスミートのレシピです。

ミンスミート Mincemeat


カラント…100g

レーズン…100g

サルタナ…100g

ドライクランベリー…100g

ドライソフトプルーン…100g (アプリコットでも可)

レモンピール・オレンジピール…各25g

小さめのリンゴ…1個 (酸味の強いほうがいい。クッキングアップルが手に入ればベター!)

バター…75g

アーモンド…25g

きび砂糖…125g (ソフトブラウンシュガーでも可)

シナモンパウダー…1/2tsp

ミックススパイス…1/2tsp

レモンジュース・レモンゼスト…1個分

ラム酒…100mL (ブランデー、シェリーなどでもよい)

*ミックススパイスはシナモン、ジンジャーをベースに手作りしています。ナツメグ、クローブなどクリスマスらしいスパイスを加えるといいと思います。


①プルーン、アーモンドは小さめにカットしておく。バターもキューブ状にカットしておく。リンゴは皮をむいて芯を取り、ほかの材料と同じくらいの大きさにカットしておく。

②ラム酒以外の材料を全て鍋に入れ、弱火で10分ほど火を通す。

③火からおろし、冷めてからラム酒を加えて混ぜ、瓶に入れて保存する。


ミンスパイを作るときは、伝統的にはスイートショートクラストペストリーにミンスミートをのせ、星形にくり抜いた生地を上にのせて180℃のオーブンで10-15分ほど焼きます。

クリスマスらしさを出すために、ミンスパイ以外のお菓子に使われることも多く、ミンスミートをさらに細かく刻んでカップケーキやトリュフに加えたり、いろいろと使い道はあると思います。私は余ったミンスミートを使ってフルーツケーキを作りました。

ぜひ試してみてください!

British bake on

イギリス留学中に出会った、イギリスの伝統的な焼き菓子、ローカルビレッジの家庭のお菓子をメインに紹介するブログです。

0コメント

  • 1000 / 1000